免責金額の決め手となるポイント
火災保険は基本補償全てに免責を付ける商品や、風災・水災に個別設定できるものがあります。保険料を安くするには免責が重要なファクターとなりますが、リスクや免責金支払い能力を考慮して慎重に検討する必要があります。
免責金額の考え方とバランス
火災保険プラン設計で重要なポイントの一つに「免責金額」があります。免責金額は、災害リスク(保険請求する可能性)と加入者の価値観によって決めます。
一般的に、免責額と保険料は反比例し、免責金額が上がれば上がるほど保険料は下がる傾向にあります。
免責金額とは?
免責金額とは、保険請求する際に発生する自己負担金です。
たとえば、風災で窓ガラスが割れて10万円の損害が発生した場合、免責なしであれば自己負担なしでガラス交換できます。免責金額1万円に設定した場合は、9万円の保険金と1万円の自己負担で対処します。
免責金額10万円に設定すると、10万円以下の損害が発生しても保険請求するメリットがなくなってしまいます。
免責10万円にしたら保険に入る意味がないと思われるかもしれないですが、複数のガラスが割れたり、外壁材に大きなダメージを受けたりして数十万円~数百万円の損害が発生しても10万円の自己負担のみで保険修理することができます。
免責金額を増やせば、災害発生時のリスクは増えますが保険料が安くなるメリットがあります。
災害別に設定できる免責金額
火災保険は火事・爆発・落電の基本補償に加えて、水災・風災・破損/汚損と災害内容別に様々な補償があります。保険商品によって免責金額を付けられる項目が異なりますが、一般的に基本補償全てに免責金額を設定するか、風災(ひょう災、雪災含む)と破損/汚染の項目に限定して個別に免責金額を設定できる商品が多いです。
最近の保険は、風災や水災補償そのものを外せるカスタマイズ性のある商品が増えています。免責金額を付けるか決める際は、補償そのものを外すことも踏まえて検討しましょう。
免責金額の設定幅
免責金額をいくらに設定できるかは保険会社や商品によって変わります。火災保険全体の免責設定の相場は、基本補償全般で免責なし~10万円です。
国内3大損保の免責金額一覧をご覧下さい。
- 損保ジャパン日本興亜: 免責なし、1万円、3万円、5万円、10万円
- 東京海上日動: 免責なし、5千円、3万円、5万円
- 三井住友海上: 1万円、2万円、3万円、5万円、10万円
最近では、火災保険のカスタマイズ性を高めるために、免責金額の選択肢を増やした保険商品が増えています。
一例を紹介すると、セコム損保は基本補償の免責金額を20万円まで設定可能です。カスタマイズ性が高い火災保険として評判の楽天損保(旧朝日火災)の場合、風災・ひょう災・雪災に関しては免責なしと、免責金額3千円~100万円で合計14プラン用意されています。
このように免責金額と反比例して保険料は割安になっていきます。
保険料はどのくらい変わるの?
免責金額と保険料がどれくらい変わるかは、保険会社や建物の条件、補償プランによって様々です。
一例として、神奈川県/木造(H構造)一軒家/築20年/火災保険・地震保険・家財保険フルカバーの補償内容の保険料試算例を紹介します。
セコム損保
- 基本補償免責なし: 39,770円/年
- 基本補償免責10万円: 33,730円/年
- 基本補償免責20万円: 29,960円/年
朝日火災(現・楽天損保、基本免責なし)
- 風災・ひょう災・雪災免責なし: 31,160円/年
- 風災・ひょう災・雪災免責3千円: 30,970円/年
- 風災・ひょう災・雪災免責1万円: 30,580円/年
- 風災・ひょう災・雪災免責10万円: 27,640円/年
- 風災・ひょう災・雪災免責50万円: 21,360円/年
- 風災・ひょう災・雪災免責100万円: 19,600円/年
上記はあくまでも一例で、保険会社や補償条件によって免責と保険料の関係は変わってきます。まずは一括見積を利用して基本プランが安い保険会社を絞り込みます。保険会社によっては、オンライン見積画面で手軽に免責金額ごとに保険料がどれだけ変わるのか比べることができます。
免責金額を付けることで年間保険料が5千円安くなれば、10年で5万円弱の差が出ます。(長期契約は全体的に割安になります)
火災保険の保険請求をする機会は数年~数十年に1回あるかないかです。数年~数十年分の保険料の違いも考慮して免責設定を検討しましょう。
対象物件の災害リスクを考慮
火災保険で保険請求する主な事例は次のことがあります。
- 台風による飛来物で窓ガラスが割れた
- ひょうや雪で屋根に補修が必要な傷ができた
- 大雨で床下洪水が起こった
火災保険の請求事例で非常に多いのが窓ガラス破損です。補償内容によっては、生活者の過失で割ってしまった場合(破損)や、第三者の嫌がらせの投石(イタズラ)でガラスが割れた場合も補償されます。その他、氷や雪による被害、洪水などの水災が多いです。
一方で、火事や爆発による保険請求件数は少なく、発生すれば数千万円単位の損害になります。免責金額を決めるときは、火災や爆発のリスクよりも、窓ガラスが割れやすい環境や、雪や洪水被害が起こりやすい地域かなど、災害リスクを考慮して決めましょう。
免責設定の決め手になる事例の一部を紹介します。
- 水災リスクの低い立地で、家の窓には全て雨戸が付いているので免責金額を10万円に設定した。
- 過去10年以内に床下浸水を起こしたことがあったので再発の懸念を考慮して「免責なし」に設定した。
免責金額は支払い可能な額に
最近では免責金額の上限が20万円、30万円、100万円と高額設定できる保険も登場していますが、常識の範囲内で考えると適切な免責金額の設定額は高くても5万円か10万円です。
災害や火災など保険を利用する事態はいつ起こるか分かりません。免責金額は、貯蓄の中からいつでも支払える範囲の金額にしないといけません。長期契約する場合は、今ある貯蓄や経済力だけではなく、保険契約期間中の将来で経済的変化がある可能性も考慮しましょう。
いつでも払える免責金額に設定する考え方の一例を紹介します。
- 引越費用等で貯金を使い果たしてしまいそうなので免責なし。もしくは免責1万円など保険請求時の負担が少ないプランにする。
- 今現在、貯蓄に余裕があって直近1年で大きな買い物をする予定もない。直近の保険料を安くしたかったので、保険期間1年で基本補償免責20万円、風災補償免責50万円に設定した。
- 今現在の貯蓄や経済力に余裕があるけど、20年の長期契約をするにあたって、念のため免責設定は3万円にしておいた。
- 長期契約で保険料を安くしたい。仕事が公務員で保険契約期間中は仕事が安定している見込が高いので、免責20万円の15年契約にした。
免責設定は一種のギャンブル
「免責あり」にして保険料を安くする行為は、ギャンブルに近い要素があります。
火災や災害、その他保険請求する事態はいつ起こるか分かりません。確率的には何も起こらない可能性が圧倒的に高いですが、保険加入した当日や翌日から災害被害にあう場合もあります。
保険請求することが何もなければ、免責を高めに設定した方の勝ちになりますが、あくまでも結果論で将来のことは誰も分かりません。運が悪いと保険契約期間中に2回3回と保険請求する事態が発生する場合もあります。保険料の安さを優先させるか、免責なしで保険を使える安心感を優先させるかは加入者の価値観次第です。
火災保険を徹底的にこだわってプラン設定したい方は、保険期間を1~5年くらいにして、定期的に見直すことを推奨します。損害保険料算出機構の資料によると、住宅からの出火件数は長年減少傾向が続いています。これは、消防法や建築基準法によって火災が起こりやすい環境が減ったこと、ガスコンロのSiセンサーが普及するなど、住宅や設備の性能や安全性が向上していることが要因とされています。
今後、10年・20年後には、飛来物の衝撃では割れない強化ガラスが格安で買えるようになり、洪水リスクがほぼゼロになる街全体のインフラ設備が進むなど環境の変化で災害リスクが少なくなっているかもしれません。これらの環境背景にも注視し、5年~10年スパンで見直しを掛けるのが火災保険運用において利口な手段と言えるでしょう。